
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第19章 訪問者
いつもならマンアンの妻ユンウォンと立ち話をして帰るのだが、その日は代金と引き替えに卵を渡しただけで、早々に引き返した。
その帰り道のこと、香花が秋桜の群れ咲く道を向こうから足早に歩いてくると、例の観音像の前にしゃがみ込む人影があった。
遠目にはしかとは判じ得ないが、どうやら男のようである。銀鼠色の質の良い衣には見憶えがあった。
近づくにつれ、人影がはっきりとしてくる。
やはり、と思った。路傍の石と見間違えそうな小さな観音像の前で熱心に祈りを捧げていたのは、光王の父であった。
「旦那(オルシン)さま」
光王は父親の前で〝女房〟だと言ったけれど、まだ本当に夫婦というわけではない。流石に何も事情を知らない父親に〝父上(アボジ)さま〟と呼びかけるのは躊躇われた。
その帰り道のこと、香花が秋桜の群れ咲く道を向こうから足早に歩いてくると、例の観音像の前にしゃがみ込む人影があった。
遠目にはしかとは判じ得ないが、どうやら男のようである。銀鼠色の質の良い衣には見憶えがあった。
近づくにつれ、人影がはっきりとしてくる。
やはり、と思った。路傍の石と見間違えそうな小さな観音像の前で熱心に祈りを捧げていたのは、光王の父であった。
「旦那(オルシン)さま」
光王は父親の前で〝女房〟だと言ったけれど、まだ本当に夫婦というわけではない。流石に何も事情を知らない父親に〝父上(アボジ)さま〟と呼びかけるのは躊躇われた。
