月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第20章 父と子
父と子
家の前まで続くなだらかな坂道を登っている香花の耳に、風に乗ってかすかな歌声が聞こえてくる。その歌のせいか、さわさわと音を立てて風になびく秋桜の花たちが何故かひどく哀しげに見えた。
近づくにつれ、その声が光王のものだと判った。光王が歌を歌うなんて、随分と珍しい。二年も一緒にいる香花も初めて聞いた。
それにしても、何と淋しげな歌だろう。いや、淋しげなというよりは、切ない印象を与える歌だ。
「ただ今」
香花が告げると、光王がハッと弾かれたように面を上げた。光王は家の回りに巡らせた柵に長身を凭せかけ、ぼんやりと外の景色を見つめていたようだった。
「何だ、出かけてたのか」
光王が今更ながらに気付いたように言う。どうも取って付けたようだと思ったが、口にはしなかった。光王が考え事に沈んでいたように見えたからだ。
家の前まで続くなだらかな坂道を登っている香花の耳に、風に乗ってかすかな歌声が聞こえてくる。その歌のせいか、さわさわと音を立てて風になびく秋桜の花たちが何故かひどく哀しげに見えた。
近づくにつれ、その声が光王のものだと判った。光王が歌を歌うなんて、随分と珍しい。二年も一緒にいる香花も初めて聞いた。
それにしても、何と淋しげな歌だろう。いや、淋しげなというよりは、切ない印象を与える歌だ。
「ただ今」
香花が告げると、光王がハッと弾かれたように面を上げた。光王は家の回りに巡らせた柵に長身を凭せかけ、ぼんやりと外の景色を見つめていたようだった。
「何だ、出かけてたのか」
光王が今更ながらに気付いたように言う。どうも取って付けたようだと思ったが、口にはしなかった。光王が考え事に沈んでいたように見えたからだ。