月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第20章 父と子
「今更、あの野郎に話すことなんざ、こちとら、何もねえ」
まるで百年も前からの仇に対する物言いのようで、香花はたまらなくなった。
「お父さまはおしゃっていたわよ。明日、漢陽に向けて発つって」
「何が〝お父さま〟だ。俺の前で、あいつのことを二度と父親だなどと呼ぶな」
烈しい怒気が光王の瞳に閃いている。蒼く染まって見える双眸の底で蒼白い焔が燃え盛っていた。
「あの方は言っていたのよ。やっぱり、光王に許して貰おうと思ったのは、自分の一方的な甘えだったのかもしれないと。だから、このまま漢陽に帰るのだともおっしゃっていたわ。―とても寂しそうだった」
「香花、あいつがお袋を棄てたのは、何もお袋が賤しい妓生だったからだけじゃないんだぞ」
脅すように言われ、香花は一瞬、身を竦ませた。今の光王は全身から抜き身の刃のような殺気を漂わせている。今の彼こそが手練れの刺客としても知られる〝光王〟の顔なのだろう。
まるで百年も前からの仇に対する物言いのようで、香花はたまらなくなった。
「お父さまはおしゃっていたわよ。明日、漢陽に向けて発つって」
「何が〝お父さま〟だ。俺の前で、あいつのことを二度と父親だなどと呼ぶな」
烈しい怒気が光王の瞳に閃いている。蒼く染まって見える双眸の底で蒼白い焔が燃え盛っていた。
「あの方は言っていたのよ。やっぱり、光王に許して貰おうと思ったのは、自分の一方的な甘えだったのかもしれないと。だから、このまま漢陽に帰るのだともおっしゃっていたわ。―とても寂しそうだった」
「香花、あいつがお袋を棄てたのは、何もお袋が賤しい妓生だったからだけじゃないんだぞ」
脅すように言われ、香花は一瞬、身を竦ませた。今の光王は全身から抜き身の刃のような殺気を漂わせている。今の彼こそが手練れの刺客としても知られる〝光王〟の顔なのだろう。