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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第20章 父と子

 彼女と結婚すれば、真悦は両班という身分も官吏としての未来もすべて失うことになる。しかし、彼女と別れ、許嫁を妻に迎えれば、礼曹参判の娘聟として輝かしい前途がひらけるだろう。
 結婚によって失うもの、得るもの。彼のためにすべてを計算した上で、ヨンウォルは身を退いたのだ。
 香花は光王をそっと窺い見た。彼は勘の鋭い男だ。盗賊集団〝光の王〟が押し入ったのは、すべて名だたる両班―大臣クラスの屋敷ばかりであった。そこまで都で華々しく活躍しながらも、けして捕まらなかったのは頭領である彼の采配の見事さにあった。緻密な計算力と機を見る洞察力、決断力、リーダーとして必要なすべての要素を光王は持っている。
 そんな彼だから、父の話を聞いた今、その陰に隠れた真実に気付かないはずがない。香花が今、感じているのと同じことを彼もまた悟ったはずだ。

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