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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第21章 月下にひらく花

 光王の父成真悦は見たところ、かなりの地位にある両班のようであった。香花自身も両班の息女ではあっても、さして由緒ある家門でもなく、彼女の曾祖父、祖父、そして父も下級官吏にすぎなかった。
 しかも金氏は今や、香花しか跡目を継ぐべき人間はおらず、家門は断絶寸前である。このまま香花が聟を迎えず、他家に嫁いでしまえば、金氏は完全に廃絶してしまう。香花としては、それだけは避けたいと考えているのだ。
 香花がこれまで光王との結婚―慕う男との幸せな生活を夢見ながらも、今一つ踏み切れなかったのには、実家の再興という現実問題があったのも事実ではあった。それは男と結ばれることへの不安などという乙女の感傷とは全く別次元の悩みであったのである。

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