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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第22章 第6話【漢陽(ハニャン)の春】・再会

 武芸を得手とするよりも知略に富んでいたため、軍師的な役割を務めたといわれ、朝鮮国建国後は修撰(スチヤン)を務めたという輝かしい業績を持っている。ちなみに修撰とは史書の編纂や王の諮問機関または諮問会議などの書記業務を担う機関である弘文(ホンムン)館(ガン)の官職である。
 もっとも、金氏の栄光は、この一代限りで終わった。家門を継いだ二代目当主が父の威光を事ある毎にひけらかし、あつまさえ、酒色に溺れて身を持ち崩してしまった。度を過ぎた放蕩が祟り、彼は二十九歳の若さで世を去り、後には幼い一人息子とまだ若い夫人が残された。
 このような状況となれば、大抵の女人は頼りとする良人を失った心細さと先行きへの不安で嘆くばかりだが、彼女は違った。逆に自らをふるいたたせ、雄々しく立ち上がり、幼い息子を立派に育て上げ無事家門を継がせた。

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