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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第22章 第6話【漢陽(ハニャン)の春】・再会

 屋敷の周囲は見張りの兵たちによって厳重に固められていた。通常なら、たとえ身内だとて面会は許されない非常事態の最中、叔母は兵に幾ばくかの金を握らせ、香花にひそかに逢いにきたのだ。
 その時、香花は、ほどなく香花自身もまた追捕の命が下り、その身柄を連行されるだろうと叔母から告げられた。その情報は叔母が極秘に義禁府長の奥方から仕入れてきたものだった。香花の亡くなった父も親しくしていた著名な需学者張(チヨン)峻烈(ジヤンリヨル)の末娘が義禁府長の奥方その人であったことから、奥方は逢ったこともない香花にも同情的であったのだ。それが幸いして、叔母は事前に香花捕縛の命が下るのも近しの情報を得た。
 むろん、その時、叔母が義禁府長の奥方にも相応の礼金を積んだことは言うまでもなかろう。叔母はそんなことは口にしなかったが、科人である自分に面会するために、叔母がどれほどの犠牲を払ったかをすぐに察した。

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