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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第22章 第6話【漢陽(ハニャン)の春】・再会

 それもひとえに、香花を都から無事に逃すためであった。香花は金氏最後の生き残りでもある。最早、香花だけが金氏を継ぐ人間となってしまった。香丹としては、香花は可愛い姪であると同時に、今や風前の灯火となった金氏再興の希望でもあるのだ。
 叔母の機転が功を奏して、香花は崔氏の屋敷から逃れられた。後に完宗の怒りも解け、香花が囚われる怖れもなくなったが、香花は光王と共に漢陽を離れた。
「叔母上さま、不孝者の私ではありますが、どうか帰還の挨拶をお受け下さいませ」
 香花はそう言うと、立ち上がる。両手の平を重ね合わせ、眼の高さに持ち上げると、その場に座って深々と頭を下げた。目上の者に対する敬意を表す拝礼である。
 しとやかに拝礼する香花を、香丹は感慨深げに見つめていた。またしても込み上げてくるものがあったらしく、再び手巾でしきりに目頭を拭いている。

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