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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

「判りました、判りました。言えば、良いんでしょう?」
 半ば自棄のように言い、執事は大仰な溜息をついた。
「お嬢さま(アガツシ)がお見えになったんですよ」
「お嬢さま?」
 それだけでは、何のことか皆目判らない。不審げに問い返した光王に、執事は浅く頷く。
「沈家のお嬢さまですよ」
「沈家―、奥さま(マーニン)の実家の一族か?」
 浮かんだのは当然の疑問であった。執事は訳知り顔で頷く。
「はい(イエー)。正確に言うと、遠縁に当たる沈家のご息女です。同じ一族とはいっても、もう何代も前に枝分かれした分家の末裔ですから、ご本家の奥方さまとは殆ど血の繋がりはないと思いますがね」
 なるほど。光王は心得たように頷き、執事の顔に耳を近づけた。
「だが、その沈家の息女が来たからといって、どうしてここまで屋敷中が浮き足立っているんだ?」

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