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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

 和真は光王の腹違いの弟、つまり父真悦と夫人妙鈴との間に生まれた一粒種である。学問を良くし、穏やかな人柄であった。英明な青年として将来を期待されていたものの、生来虚弱で、二年前に二十五歳の若さで亡くなっている。生きていれば、光王より一つ違いの二十七になっているはずだ。
「その和真の許婚者が何で俺の女房になるんだ? っていうか、何がどうしたら、そういう話になるんだよ?」
 執事は渋い顔で口をつぐんだ。
「いかに若さまの仰せとはいえ、私の口からこれ以上は申し上げられませんよ。もし私が喋ったなどと知られたら、奥さまにお叱りを受けますから」
「ふうん、それは残念だな。俺の代になって、惜しい人材をなくすことになるとは。お前は我が家のためによく働いてくれる有能な執事だ、解雇するのは、はなはだ不本意ではあるが―」
 言いかけた光王に、執事が覆い被せるように叫んだ。

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