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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

 光王の母を蹴落とした憎い女の息子ではあるが、光王にとっては、ただ一人の弟でもあった。できることなら、生命のある中に一度でも顔を見ておきたかったというのが正直な気持ちだ。
 和真が亡くなった時、婚約者の彩景は十八歳だった。二人の縁組が整ったのはそれから遡ること七年も前、和真が十八歳、彩景が十一歳の春だという。むろん、当時の上流階級のならわしに則り、親同士が取り決めた結婚ではあったが、若い二人は仲睦まじく、逢う度に琴瑟相和して互いに好意を抱き合うようになった。
「そりゃあもう、私が見ましても、思わず微笑みたくなるような仲の良さでした。ですから、坊ちゃまが身罷られた際、彩景さままでもが後を追ってしまわれるのではないかと案ずるほど嘆かれたのも当然のことのように思えましたよ。あれほど心から慕っておられた坊ちゃま以外の男に嫁ぐ気にはなれない―というお嬢さまのお気持ちは判ります」

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