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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

 言葉どおり脅すような口調で囁いた。
「何故、突然、和真の許婚者が俺の妻という触れ込みで来たんだ?」
「ですから―、先ほどから何度も申し上げたように、奥さまが彩景さまをお呼びになったのです。坊ちゃまが亡くなられた後、彩景さまはお心淋しくお暮らしのご様子で、幾らご両親が新しい縁談をお持ちになっても、いっかな首を縦に振らず、沈家でもお困りのようだったとお聞きしました」
 執事が〝坊ちゃま〟と呼ぶその言葉には、短いけれど深い慈しみと哀惜の念がこもっている。自分への形だけの慇懃無礼さとは正反対だ。
 光王は異父弟の和真には逢ったことはない。あの女の生んだ息子だと思えば、あまり良い印象は浮かばないが、予想に反して、周囲の誰からも愛される青年であったようだ。恐らく温厚篤実な人柄は父に似たのだろう。

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