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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

 思案に沈む光王を、執事は少し同情のこもった眼で見た。 
「でも、何を思われたか、奥さまが今年になって、若さまの姿絵を沈家にお送りになられて。それをご覧になったお嬢さまはひとめ見るなり、〝和真さま〟と言葉を失われ、姿絵を胸に抱いて、はらはらと落涙されたといいます」
 それが今回の彩景のいきなりの登場に繋がったのだとは光王だとて容易に想像がつくというものだ。
「―執事(イボゲ)、俺はそんなに弟に似ているか?」
 ふと零れ落ちた疑問に、執事が頷く。
「確かに、よく似ておられます。私もこうして若さまとお話していると、亡くなられた坊ちゃまがお帰りになったとふと、錯覚しそうになるほどですからね。坊ちゃまは若さまほど精悍な感じはしなかったですし、こう申し上げては何ですが、眼の色も髪の色も全く違うんです。

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