
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第23章 揺れる心
なのに、ひとめ見た時、私は〝坊ちゃま〟と呼んで、若さまに駆け寄ろうとする自分を抑えるのに精一杯でした。―良い方でしたよ。私は坊ちゃまが産まれたときから、ずっと知ってますから。まだ赤ン坊だった坊ちゃまを抱っこして差し上げたこともあるし、よちよち歩きを始めたばかりの頃も知ってます。五、六歳になられてからは、この庭で坊ちゃまにせがまれて、相撲を取りました。何で、将来のある若い方が先に亡くなって、私のような役立たずの年寄りが後に残るんでしょうかねえ。二年前に坊ちゃまがお亡くなりのときは、随分と天を恨めしく思いました」
執事の口調は、仕えた主家の息子に対するというよりは、実の息子か孫を懐かしむようなものだった。彼がいかに亡くなった和真を可愛がり大切に思っていたか窺える。
「そなたは弟を可愛がっていたのだな」
「可愛がるだなんて、滅相もない。坊ちゃまはあくまでも旦那さまのお子で、この家の跡取りでいらっしゃった方です。私は、ただの使用人にすぎない身です」
執事の口調は、仕えた主家の息子に対するというよりは、実の息子か孫を懐かしむようなものだった。彼がいかに亡くなった和真を可愛がり大切に思っていたか窺える。
「そなたは弟を可愛がっていたのだな」
「可愛がるだなんて、滅相もない。坊ちゃまはあくまでも旦那さまのお子で、この家の跡取りでいらっしゃった方です。私は、ただの使用人にすぎない身です」
