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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

 執事の立場では、こう言わざるを得ないだろう。それは、光王にも判った。
「ありがとう(コマオ)。そなたの話が聞けて、良かった。先刻は話を聞くためとはいえ、脅したりして済まなかった」
 光王がいつになく真摯に言うと、執事は細い眼をしばたたいた。
「良いんですよ。こちらの旦那さまにとっては、最早、若さまだけが頼りです。坊ちゃまがお亡くなりになってから、旦那さまは一辺に十以上歳をお取りになったようにお見受けします。どうかこの家に根を下ろして、立派な跡継におなり下さい。私も至らない身ではありますが、若さまの代まで我が息子共々心を込めてお仕えさせて頂くのを愉しみにしておりますよ」
 人の好い執事の皺深い眼には、光るものがあるようだ。

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