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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

 執事の語ったとおり、どうやら、女中たちが話していたのも彩景の登場についてのようであった。彼いわく、もう、屋敷中、その話でもちきりだという。
 義母の腹は判らないが、光王は怒りのあまり、あの取り澄ました高慢女を殴り飛ばしてやりたいとすら思った。もちろん、光王は基本的に凶暴でもないし、ましてや、か弱い生きものである女性に手を上げるのは野蛮な男のすることだと思っている。それだけの分別は持っているつもりだ。
 しかし、今回ばかりは、どうにも激情を抑えかねた。何故、あの女は、弟の許婚者を今になって呼び止せたりしたのか。しかも、わざわざ自分の姿絵を送りまでして、彩景の心を動かす必要があったというのだろうか。
 光王が最も許せないのは、このことで、他ならぬ香花を追いつめてしまったということだった。光王と香花は既に婚礼も挙げ、正式な夫婦となっている。

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