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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

「何を泣いているんだ?」
 優しく問いかけても、香花は黙って首を振るばかりだ。香花の性格からして、義母の悪口を得々と語るような女ではないことは判っている。香花であれば、むしろ、自分の不用意なひと言が起こす波風を思い、何があっても光王には話さないだろう。―そういう女だ。
 だからこそ、そんな女だからこそ、彼は香花に惚れたのだ。この女以外には、もうどんな女も要らないと思うほどに強く惹かれた。
「泣いていたんじゃ、判らない。俺の前でも泣くことなんて滅多にないお前がどうして、そこまで泣いてるんだ?」
 何か、よほどのことがあったんだろ。
 光王の言葉に、香花がハッとしたような表情になる。その大きな瞳にまた、大粒の涙が浮かんだ。誰よりも大切だ、守りたいと願う女の涙は、光王の心を大きく揺さぶった。

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