
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第23章 揺れる心
―何か、よほどのことがあったんだろ。
優しく問われ、香花は一旦は止まりかけていた涙が再び滲んでくるのを自覚した。
気遣われている。心配をかけている。そう思えば思うほど、何か光王を安心させる言葉を口に乗せなくてはならないと思うのに、肝心の言葉が出てこない。
「何でも、ないの」
漸く返せた言葉は、実に短いものだった。我ながら、何とも能のないことだと思うけれど、下手に言葉を重ねれば、勘の鋭い彼に嘘を見抜かれてしまう怖れがある。だから、かえって何も話さない方が良いかもしれない。
そんなことをつらつらと考えていると、先刻まで頭上から降ってきた声が、今度は耳許に迫ってきた。
「―嘘だな」
香花が、ふと我に返って身を捩ると、彼女を腕に抱きしめていた光王がいっそう顔を接近させている。彼の唇が、香花のやわらかな頬に今にも触れそうだ。
優しく問われ、香花は一旦は止まりかけていた涙が再び滲んでくるのを自覚した。
気遣われている。心配をかけている。そう思えば思うほど、何か光王を安心させる言葉を口に乗せなくてはならないと思うのに、肝心の言葉が出てこない。
「何でも、ないの」
漸く返せた言葉は、実に短いものだった。我ながら、何とも能のないことだと思うけれど、下手に言葉を重ねれば、勘の鋭い彼に嘘を見抜かれてしまう怖れがある。だから、かえって何も話さない方が良いかもしれない。
そんなことをつらつらと考えていると、先刻まで頭上から降ってきた声が、今度は耳許に迫ってきた。
「―嘘だな」
香花が、ふと我に返って身を捩ると、彼女を腕に抱きしめていた光王がいっそう顔を接近させている。彼の唇が、香花のやわらかな頬に今にも触れそうだ。
