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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

「お前は、いつも嘘をつくのが下手だ。応えが顔に書いてあるような、あからさまな嘘をついて、どうする? どうせつくなら、もう少しマシな嘘を考えた方が良いぞ?」
 からかうように言われ、香花は笑った。
「そうね。確かに、あなたの言うとおりだわ、光王。最初から見抜かれる嘘なんて、嘘とは言えないものね」
「つまり、お前は嘘のつけない質(たち)の女ってことさ」
 光王は声を低め、香花の耳許に唇を寄せる。殆ど彼の唇が耳を掠める至近距離だ。
「だが、俺はお前のそういう正直さを好もしいと思う」
 声だけでなく熱い吐息までもが耳朶をくすぐり、香花は思わず鼓動が速くなる。
 彼女の反応を愉しむかのように、光王は眼を細めて眺めていたかと思うと、やがて、その唇が束の間、彼女の頬をかすめた。
「―もう、光王ってば」

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