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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

「私の母がどのような想いでいたか、私には知るすべはありません。でも、亡くなる直前まで、母は父上に対して恨みがましいことは一切口にしませんでした。誰をも恨まず妬まず、ただ、こうなったのは己れの宿命(さだめ)なのだと従容と受け容れ、日々を精一杯に生きていました。父上、私は香花を見ていると、亡くなった母上をしきりに思い出すのです。宿命を恨みもせず、受け容れた上で雄々しく生きてゆこうとする香花の姿に、懸命に生きようとしていた母上を見るのです。―私には、到底、香花と別れることなど考えられない」
「控えよ、光王ッ」
 突如として、妙鈴の憤怒に満ちた声が光王の言葉を遮った。
 光王は感情の一切を消したような冷え冷えとした視線を義母に向けた。
「先刻、私は母の気持ちがいかようであったかは判らないと申し上げましたが、義母上、私が母ならば、絶対にあなたを許さない。あそこまで私の母を追いつめる必要があったというのですか?

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