月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第23章 揺れる心
母はあなたを蹴落として妻になりたいだなどと大それた望みを抱いてはいなかった。ただ父上を愛していただけなんだ。その、どこがいけなかった? 母は妓生だ、生涯、廓から出られない宿命だということくらいは、あなたにも判っていたはずでしょう。母はただ時折、父上が妓房に通ってきて、顔を見られたら、それだけで良かったんだ。多くのものを望みもせず、ひたすら堪えていた母をあなたはどん底に追い落とした!」
光王は叫ぶと、それでも一礼することだけは忘れず、身を翻した。
とうとう、言ってしまった。けして口にすることはないだろうと思っていた言葉の数々を吐き出した。
光王の瞼に、亡き母の儚げな笑顔が甦る。百合の花を彷彿とさせるような気高い凜とした美しさを持ったひとだったのに、現実には彼女の辿った運命は酷いものだった。彼女は夜毎、別の男に脚をひらく―自らの身体をひさぐ生業(なりわい)、妓生として生きていくしかなかったのだ。
光王は叫ぶと、それでも一礼することだけは忘れず、身を翻した。
とうとう、言ってしまった。けして口にすることはないだろうと思っていた言葉の数々を吐き出した。
光王の瞼に、亡き母の儚げな笑顔が甦る。百合の花を彷彿とさせるような気高い凜とした美しさを持ったひとだったのに、現実には彼女の辿った運命は酷いものだった。彼女は夜毎、別の男に脚をひらく―自らの身体をひさぐ生業(なりわい)、妓生として生きていくしかなかったのだ。