テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第24章 交錯する想い

 〝若奥さま〟と呼ぼうとして、〝ただの香花と呼んで〟と言われた女中は愕きのあまり、声も出なかった。
 かえって使用人たちと共に働くようになったのは、香花の人柄を彼等が知る良い機会となった。〝ちっとも偉ぶらない、お優しい若奥さま〟は、いつしか成家の使用人たちの間で慕われる人気者となっていたのだ。
 香花は棍棒を持つ手をふと止めた。洗濯は棍棒で汚れ物を叩いて汚れを落とすわけだが、これが結構、根気と体力の要る作業である。彩景が来た日から、香花はそれまで纏っていた上物の衣服から、木綿の粗末なものに替えるように言い渡された。その分、動きやすいのは助かるが、このなりでは、本当に使用人と何ら変わらない。
 流石に使っていた部屋まで出てゆけと言われることはなかったが―。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ