月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第24章 交錯する想い
香花は言うだけ言うと、頭を下げ、来たときと同じように静かに室を出ていった。
「なっ、何という小生意気な女か! あのような女、尚更、成家の嫁として認めるわけにはゆかぬ。ええい、思い出すだに、腹の立つ」
妙鈴は紅で染めた指先を苛々と癇性に噛む。苛立ったときの癖なのだ。
彼女の脳裡に、ひと月前の出来事がまざまざと浮かんだ。
―義母上、人の価値とは果たして貴賤の別だけで決められるものでしょうか? たとえ身は綺羅を纏い、数え切れぬほどの玉で身を飾り立てたとて、心賤しき人はどこにでもいるものです。いや、むしろ、中身のない、つまらない人間だからこそ、外見に拘り必要以上に見栄を張ろうとするのやもしれません。裏腹に、襤褸を纏うその日暮らしの民の中にも、心ある者はおります。私は、そういった者の方こそが真の人間といえるのではないかと常々、考えております。
「なっ、何という小生意気な女か! あのような女、尚更、成家の嫁として認めるわけにはゆかぬ。ええい、思い出すだに、腹の立つ」
妙鈴は紅で染めた指先を苛々と癇性に噛む。苛立ったときの癖なのだ。
彼女の脳裡に、ひと月前の出来事がまざまざと浮かんだ。
―義母上、人の価値とは果たして貴賤の別だけで決められるものでしょうか? たとえ身は綺羅を纏い、数え切れぬほどの玉で身を飾り立てたとて、心賤しき人はどこにでもいるものです。いや、むしろ、中身のない、つまらない人間だからこそ、外見に拘り必要以上に見栄を張ろうとするのやもしれません。裏腹に、襤褸を纏うその日暮らしの民の中にも、心ある者はおります。私は、そういった者の方こそが真の人間といえるのではないかと常々、考えております。