月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第24章 交錯する想い
「果たして、そのような事実が真にあったのかどうか、私も実のところ、知らないのだ。ただ、国王(チユサン)殿下(チヨナー)がお住まいの宮殿はもちろん、両班の屋敷には、そういった類の話は付きもののようなものだ。先祖にそのような鬼畜のごとき無体をした者がいるとは子孫としては考えたくない話だが、全くあり得ない話ともいえぬ」
以前も、この井戸周辺で蒼い蝶を見たという娘がいたのだ。
真悦が香花に言うともなしに呟く。
「その女中はどうやら、末を言い交わした男に棄てられたらしい。蒼い蝶を見た満月の夜からきっかり三日後、自らこの井戸に飛び込んで果てた」
儂がまだ子どもの頃の話、父の代の話だ。
真悦の声が一瞬、遠くなった。
また、軽い眩暈が香花を襲う。
ぞわり、と思わず背筋が粟立つ。
以前も、この井戸周辺で蒼い蝶を見たという娘がいたのだ。
真悦が香花に言うともなしに呟く。
「その女中はどうやら、末を言い交わした男に棄てられたらしい。蒼い蝶を見た満月の夜からきっかり三日後、自らこの井戸に飛び込んで果てた」
儂がまだ子どもの頃の話、父の代の話だ。
真悦の声が一瞬、遠くなった。
また、軽い眩暈が香花を襲う。
ぞわり、と思わず背筋が粟立つ。