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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第24章 交錯する想い

「妙鈴のことだが」
 真悦が思い出したように唐突に言った。
「あれは気の強い女だが、根は悪くはない。頼りにしていた一人息子を失って、まだ混乱した状態なのだよ。妙鈴にとって、和真はただ一つの生きる支えだった。そなたは色々と思うところも感じるところもあるだろうが、どうか許してやってくれぬか」
「判りました」
 香花が素直に頷いたのを見、和真は安心したように微笑んだ。
「苦労をかけているのに、そなたばかりに堪えろと言っているようで、済まないな」
 いいえ、と、緩くかぶりを振った香花に、真悦はくどいほど念を押した。
「くれぐれも早まったことは考えないようにしなさい。何かあれば、儂か光王に言うように。良いね」
 香花は脚早に去ってゆく真悦の後ろ姿に、そっと一礼した。

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