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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 女将は光王に惚れているのだ。だから、光王が連れてきた少女を眼の仇にした、ただそれだけのことだ。
 あのときはまだ、香花は光王とは単なる知り合いという程度にすぎなかったから、何故、女将が自分に辛く当たるのか理解できなかった。それに、何より、香花自身がまだ子どもだった。
 もっとも、今でもあの頃の十四歳の自分とさほど変わりはないと自覚はしている。光王とはもう数え切れないほどの夜を共にし、幾度も男に抱かれた。それでも、香花は相変わらず世間知らずの奥手だし、男女の事になると、からきし疎い。
 自分を良くは思っていない人のところに、どうして来ようなどと思ったのか。来るという明確な意思はなくても、都で少しでも頼れそうな人物といえば、女将の他は誰もいなかったから、無意識の中にここに来てしまったのかもしれない。

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