月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第25章 岐路(みち)
この子のゆく末には、どれだけの可能性があることか。その無限の可能性を摘み取るなんて、たとえ親にも許されないことなのだ。この子の生命はこの子だけのものなのだ。
あの老婆は、暗に香花に伝えたかったのではないだろうか。
めぐる想いに応えはない。
その時、眼前で素っ頓狂な声が聞こえた。
「あら、まあ」
香花は長い物想いから覚め、眼を瞠った。
「あんた、―確か香花だったっけ?」
艶な中年増の女は、酒場の女将だった。二年半前、香花が崔氏の屋敷を逃れた際、光王が香花や崔明善の遺児たちを一時的に匿っていた、あの酒場である。
道理で、見憶えがあると思ったはずだ。しかし、香花は最初からここに来るつもりはなかった。ここの女将が自分を嫌っているのは知っている。いや、嫌っている―という言い方は適切ではないかもしれない。
あの老婆は、暗に香花に伝えたかったのではないだろうか。
めぐる想いに応えはない。
その時、眼前で素っ頓狂な声が聞こえた。
「あら、まあ」
香花は長い物想いから覚め、眼を瞠った。
「あんた、―確か香花だったっけ?」
艶な中年増の女は、酒場の女将だった。二年半前、香花が崔氏の屋敷を逃れた際、光王が香花や崔明善の遺児たちを一時的に匿っていた、あの酒場である。
道理で、見憶えがあると思ったはずだ。しかし、香花は最初からここに来るつもりはなかった。ここの女将が自分を嫌っているのは知っている。いや、嫌っている―という言い方は適切ではないかもしれない。