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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

「美味しかったです。ご馳走さまでした」
 礼儀正しく頭を下げる香花に対し、女将も大真面目に応える。
「風邪の引き始めには、これがいちばんさ。呑む直前にほんの少し生姜の擦ったのを入れるのが効くんだよ」
 はい、と頷く香花を見る女将の表情は実に複雑そうである。
「ま、あんたがここに来たのには、何やら事情がありそうだね」
「女将さん、よくお判りになりましたね」
 香花が感心して言うと、女将はプッと吹き出した。
「当たり前じゃないか。事情がなきゃ、あんたみたいなお嬢さんがこんな場末の薄汚い酒場にたった一人で来るものか。さては光王と喧嘩したね」
「遠からずといったところです」
 生真面目に応えた香花に、女将が堪え切れないといったように腹を抱えて笑った。

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