テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 その手つきは意外なほど優しくて。
 香花に十一年も前に亡くなった母を思い出させた。
「ああ、本気で相手にするのが阿呆らしくなっちまった。二年前、あんたをひとめ見た時、この娘は必ず光王の心を射止めるだろうと思った―いや、この酒場にあんたを連れてきたその時、既にあの男はあんたに惚れてたんだよ。所詮、あんたとあたしじゃ、端から勝負にはならなかった。だから、私はあんたみたいに若い子に年甲斐もなく嫉妬したのさ」
 香花は、初めて素直な胸の内を女将に打ち明けた。
 六歳の時、自分を生んだ母が死んだこと。
 先刻、女将が髪を直してくれた時、唐突に、遠い昔に亡くなった母を思い出してしまったこと。
 その話を聞き、女将はまた笑って、
「失礼な娘だねえ、あたしはまだこれでも三十七だよ。あんたの母親には少しばかり若すぎやしないかい」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ