テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 翌日、香花は店の手伝いをしていた。折しも時は昼過ぎ、夜に次いで、店が最も賑わう時間帯である。
 客の注文を訊き、それを厨房の女将に伝える。町外れの場末の酒場としては、まずまずの店だが、どうやら雇い人は置かず、彼女一人で切り盛りしているらしい。
「助かるよ。若い娘を雇おうと思ってるんだけど、なかなか気に入った子が見つからなくてさ。幾ら別嬪でも、こういうのは気働きができなきゃ、到底務まらない商売だから。ただ綺麗なだけの子は、うちは使わないんだよ。そういう娘には、うちみたいな薄汚い酒場より妓房に行きなって断ってるんだけどね。あんたみたいな娘がいてくれりゃ、うちの店も繁盛するよ」
 女将は小声で囁き、ニッと笑った。
「はい、これは、向こう―いちばん奥の若い二人連れの分ね」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ