月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第25章 岐路(みち)
女将は盆に乗せた丼飯二人分と酒を香花に渡しながら、思いついたように耳打ちした。
「それから、これだけは気をつけるんだ。客の中にはうちを妓房と勘違いしてくる輩もいるからね。そういう手合いは、上手に交わすんだよ? まともに相手なんかせず、適当なことを言って、逃げておいで」
〝はい〟と、香花は返事をして、受け取った盆を運ぶ。
教えられたとおり、最奥の卓まで運んでいったときのことだ。また、あの烈しい吐き気が胃の腑の底からせり上がってきた。それを堪えるのに精一杯で、職人らしい二人の若い男たちが香花にボウッと見惚れているのにも気付かない。
「誰だよ、見かけない娘だな」
「新しく雇った娘だろ」
「えらい器量良しじゃねえか。一度口説いてみるか」
「それから、これだけは気をつけるんだ。客の中にはうちを妓房と勘違いしてくる輩もいるからね。そういう手合いは、上手に交わすんだよ? まともに相手なんかせず、適当なことを言って、逃げておいで」
〝はい〟と、香花は返事をして、受け取った盆を運ぶ。
教えられたとおり、最奥の卓まで運んでいったときのことだ。また、あの烈しい吐き気が胃の腑の底からせり上がってきた。それを堪えるのに精一杯で、職人らしい二人の若い男たちが香花にボウッと見惚れているのにも気付かない。
「誰だよ、見かけない娘だな」
「新しく雇った娘だろ」
「えらい器量良しじゃねえか。一度口説いてみるか」