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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 弾みで手にした盆を落としてしまう。幸いにも既に盆の上のものは運んだ後だったので、被害はなかった。
 その場に這いつくばって蒼い顔で咳き込む香花の背を、そっと女将の手が撫でる。
「言いにくいことを言うようだけど、あんたは孕んでるね?」
 女将には隠しても意味がない。
 香花は二度ゆっくりと頷いた。
 女将が〝やっぱりね〟と顎を引く。
「おかしいとは思ってたんだ。あんたくらいの歳頃の娘は、愕くほど飯を食うもんさ。なのに、あんたは小鳥がついばむよりもまだ少ないくらいしか、食べなかっただろう。もしかして―とは考えたけど、どうやら勘は外れてはいなかったようだねえ」
「隠していて、ごめんなさい」
 謝れば、女将は笑った。

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