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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

「あんた、見かけはどこから見ても、立派な両班の若さまなのに、中身は全然変わってないねえ。それにしても、見違えたよ、上物のべべ着てさ。うっかり近づいたら、〝こんな薄汚い女なぞ知らぬ〟だなんて、すげなくされそうだよ? まあ、あんたが両班の坊ちゃんだっただなんて、仰天したの何のって」
 横柄な両班の声色を真似ての女将の揶揄にも、光王は仏頂面で鼻を鳴らしただけだ。
「俺のお袋は妓生だから、正確に言やア、俺は両班じゃない。正室の子ということで、跡継になったんだ」
「じゃ、素姓をごまかしたんだねえ」
 けらけらと笑う女将をじろりと一瞥し、〝何がおかしいのやら〟とふて腐れている。その様は、まるで子どもだ。
 香花は、女将の前では別人のようになる光王を見て、また新たな衝撃を受けていた。
「何で、こんな妓生紛いのようなことをさせるんだ?」

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