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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 その科白に、光王はジロリと怖い眼を向ける。
「何で黙って姿を消したりした? 俺はもう生きた心地もしなかったんだぞ?」
 その後で、凄んだのが嘘のように小さな声になる。
「まさか本当に、俺を嫌いになったのか?」
 香花はその傷ついた少年のような彼に、微笑んで首を振る。光王は多分、これまでにも女将の前で見せたような顔を、自分にも見せていたのだろう。ただ、自分が光王に自分の理想を重ねて、本当の彼を見ようとしなかっただけなのだ。
 守ってくれる頼もしい男―、いつでも冷静で自分を見失わない。それが光王だと思い込んでいた。しかし、それは香花が勝手につくり上げた虚像だった。自分がつくり上げた虚像と実像の違いに気付き、落ち込むなんて、やっぱり自分はまだまだ世間知らずの子どもだ。

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