
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第26章 都の春
朝鮮に金氏の姓など、掃いて捨てるほどもある。よもや、香花が金氏を名乗っているからといって、あの名門金氏の血を引く娘だとは思ってもみなかった。
真悦の脳裡に、初めて出逢ったときの香花の姿が咄嗟に甦る。身なりこそ町の娘と変わりなかったものの、その立ち居ふるまいや気品は紛う事なき両班の令嬢のものだとすぐに知れた。妻妙鈴がこれまで香花を身分賤しい娘だと貶める度、真悦は、それを否定してきた。
―あの落ち着いた挙措や気品ある物腰を見れば、あの娘が庶民ではなく、両班の息女であることは一目瞭然ではないか。そなたには、それだけのことが見えないのか?
その都度、そう言い聞かせてみても、頑なになっている妻はけして認めようとしなかった。
真悦の脳裡に、初めて出逢ったときの香花の姿が咄嗟に甦る。身なりこそ町の娘と変わりなかったものの、その立ち居ふるまいや気品は紛う事なき両班の令嬢のものだとすぐに知れた。妻妙鈴がこれまで香花を身分賤しい娘だと貶める度、真悦は、それを否定してきた。
―あの落ち着いた挙措や気品ある物腰を見れば、あの娘が庶民ではなく、両班の息女であることは一目瞭然ではないか。そなたには、それだけのことが見えないのか?
その都度、そう言い聞かせてみても、頑なになっている妻はけして認めようとしなかった。
