
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第26章 都の春
何度か香花自身にも正式な出自を訪ねたこともあるのだが、香花は曖昧に微笑むだけで、何も応えようとはしなかった。自分の生まれ育ちを敢えて口にしない裏には、相応の事情があるのだと察し、無理に聞きだそうとはしなかったのだ―。
金氏は今でこそ零落しているが、先祖を遡れば、かつては修(ス)撰(チヤン)を出した名家なのだ。その令嬢と聞けば、自ずと得心がゆくというものだ。
そこで、明善は、はたと思い当たった。
「そう申せば、ふた月ほど前に、香花の叔母だという女人が我が屋敷をひそかに訪ねてきたという報告を家人から受けたことがありました。名も身分も一切明かさず、ほんの四半刻滞在しただけで逃げるように帰っていったそうですが、乗ってきた乗り物一つ見ても、両班家の奥方であることは知れたと当家の執事が申しておりました」
金氏は今でこそ零落しているが、先祖を遡れば、かつては修(ス)撰(チヤン)を出した名家なのだ。その令嬢と聞けば、自ずと得心がゆくというものだ。
そこで、明善は、はたと思い当たった。
「そう申せば、ふた月ほど前に、香花の叔母だという女人が我が屋敷をひそかに訪ねてきたという報告を家人から受けたことがありました。名も身分も一切明かさず、ほんの四半刻滞在しただけで逃げるように帰っていったそうですが、乗ってきた乗り物一つ見ても、両班家の奥方であることは知れたと当家の執事が申しておりました」
