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隣の椅子

第1章 1

「じゃあ、今日は半日休みだから、一時半にテニスコートの裏道ね」
彼はそう言い残すと急ぐように非常階段を上がっていってしまった。
テニスコートの裏道、聞いた事も無かったがテニスコートに行けばわかるだろうと思った。
時計を見ると十二時半。ちょうど下校のチャイムが鳴るところだった。
私も急いで非常階段を上がる。
二階にたどりつくと、ちょうど教室から大浦くんが出てくるところだった。
肩には、たいして何も入っていないような鞄をぶら下げている。
彼はいつも通り一番目立つ男子の隣を静かに歩いていた。
その隣の子がみんなに聞こえるような声で、聞かせるように言った。
「啓~。今日俺と動物園行く約束覚えてる?アシカみるって言ってたやつーー」
ちょっと茶色い、くりくりっとした髪とその髪が軽くかかる二重のパッチリとした目。大浦くんと身長はほとんど変わらないのに、何故か弟のようなオーラを持ってる子だった。声はそのわりに大人っぽく、少し低めの良く透る綺麗な声だった。
「あ、ごめん。忘れてた。でも、あれだよ。アシカは寒くなると外出てこねーよ」
大浦くんはさほど焦ってる様子もなかった。
でも、アシカは寒いところに住んでるんだよ。っと通りすがりに言ってしまいたくなるようなボケを彼は言っていた。
「啓はいつもそれだ。
どうせ適当に誰かと、そのスマイルでお茶の約束でもしたんだろ?
それとアシカは寒い事ぐらい、僕ちんの為に出てくれるっ」
隣の子、佐藤圭巳《サトウ キヨミ》の言っている事はあたっていた。
ちょっと十分前くらいにスマイル付きだったかは覚えてないが、お茶に誘われたのは私だ。
でも私が最後にわかった事は、この二人は本当にアシカの事を何も知らない、という事だった。
腕に引っ付いている佐藤君を剥がすように押し退けて、
「野郎二人で行ったってアシカは出てくれないと思うな。まあ、また今度にしようよ。なっ、」
そう大浦君が、佐藤君から目をそらした時、

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