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隣の椅子

第1章 1

なんでこんなのばっかり貼ってあるんだろう、」
私は、彼の発言に驚いた。
それは、私が前々から思っていた事と一緒だったからだ。
この考えにたどり着く、と言うことは、ある程度毎日新聞を読んで理解しているという事だろう。
私は彼が新聞を読んでいる事に驚いた。
別に不真面目なイメージはなかったが、新聞に書いてあるような事に興味があるとも思っていなかったからだ。
不思議だった彼のいつも物静かにまるで自分がいる世界を客観視している様な態度の理由を、覗き見た気がした。
「確かに最近書かれた新聞じゃないのは確かだよね。
ねえ、大浦くんはこの新聞の切り抜き、誰が貼ってるか知ってる?」
含みたっぷりな言い方で私は彼に質問を投げかけた。
彼は考える素振り一つせずに首を横に振った。
「小鷹さんは貼ってるところ見たことあるの、」
知ってるの、と言い方をせずに私がこの場所によく居ることを織り込んで、見たことあるの、と聞くところが頭の回転の速さを伺わせる。
でも私は、「しらない」
そう答えた。
「見たこと無いの、貼っている姿も、貼り替えてる姿も。
何時に来てここに座って見張っていても。昨日と一緒だったのが、ふっとした瞬間。ちょっとトイレに行ってる隙とかに、もう貼り替えてあるの。」
私が“憩いの場”を変えたことは伏せておいた。貼り替えの瞬間を見張る為に“憩いの場”を移動したことは・・・
ふっと、まじめな表情して聞いていた彼が顔の表情を緩めた。

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