テキストサイズ

花鬼(はなおに)~風の墓標~

第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】

 絢は紅い鼻緒の草履を脱ぐと、きちんと揃えた。白い脚をそっと泉の水に浸ける。幾ら陽差しは春めいてきたとはいえ、二月の水はまだまだ身体の芯まで凍るように冷たかった。だが、絢は頓着せず泉の淵に座り、両脚を泉の水に浸していた。常人ならば到底我慢できないような水の冷たさも、絢にはかえって心地よい。絢は低い声で唄を口ずさんだ。
 それは絢が幼い頃、母がよく聞かせてくれた子守唄であった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ