アルカナの抄 時の息吹
第1章 「魔術師」正位置
「はいはい。追い出されない程度に、ほどほどに手を抜くわ」
飄々と言うと、王は顔をしかめた。
「おまえ…」
「いつまでそこにいるつもり?邪魔よ。どいて」
国王である自分に、“邪魔”。まるで物のような粗雑な扱いに、国王はしばらく言葉をなくした。
「俺にそんなことを言ったのはおまえが初めてだ。…まあいい。しっかりやれよ」
追い出されないようにな、と嫌みったらしく言い残し、王は去っていった。
「手の抜き方を知ってるのが大人よ」
鼻で息をつくと、再びほうきを手にとり、荒々しく掃き始めた。
太陽が西に傾く頃、王は政務室から戻り、自室でくつろいでいた。沈む夕陽を眺め思い出すのは、あの時のこと。幸せだった、その幸せがいつまでも続くと思い込んでいた最後の日…。
その時、三回ノックが響いた。
「…誰だ」
扉をちらりと見、ぼそりと言った。
「あたし」
そう返すと、入るわよ、と返事も聞かずに扉を開けた。
「何の用だ」
背を向けたまま言うその声には、気のせいか張りがない。だが指摘はせず、いつもの調子で口を開く。
「服を借りたい場合は、誰に言えばいいのかしら?」
壁にもたれながら、目の前の背中に言った。着の身着のままこの世界へ来たため、服は仕事帰りのままだった。
「服を貸してやるとまで言った覚えはねえな」
「さっきは急だったから仕方なくこのままやったけど、このブラウスだと作業しづらいのよね。こんなタイトスカートじゃ、寝るのにも向かないだろうし」
睡眠は労働には大事よね、と王を見た。
飄々と言うと、王は顔をしかめた。
「おまえ…」
「いつまでそこにいるつもり?邪魔よ。どいて」
国王である自分に、“邪魔”。まるで物のような粗雑な扱いに、国王はしばらく言葉をなくした。
「俺にそんなことを言ったのはおまえが初めてだ。…まあいい。しっかりやれよ」
追い出されないようにな、と嫌みったらしく言い残し、王は去っていった。
「手の抜き方を知ってるのが大人よ」
鼻で息をつくと、再びほうきを手にとり、荒々しく掃き始めた。
太陽が西に傾く頃、王は政務室から戻り、自室でくつろいでいた。沈む夕陽を眺め思い出すのは、あの時のこと。幸せだった、その幸せがいつまでも続くと思い込んでいた最後の日…。
その時、三回ノックが響いた。
「…誰だ」
扉をちらりと見、ぼそりと言った。
「あたし」
そう返すと、入るわよ、と返事も聞かずに扉を開けた。
「何の用だ」
背を向けたまま言うその声には、気のせいか張りがない。だが指摘はせず、いつもの調子で口を開く。
「服を借りたい場合は、誰に言えばいいのかしら?」
壁にもたれながら、目の前の背中に言った。着の身着のままこの世界へ来たため、服は仕事帰りのままだった。
「服を貸してやるとまで言った覚えはねえな」
「さっきは急だったから仕方なくこのままやったけど、このブラウスだと作業しづらいのよね。こんなタイトスカートじゃ、寝るのにも向かないだろうし」
睡眠は労働には大事よね、と王を見た。