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アルカナの抄 時の息吹

第8章 「世界」正位置

「…様~…――お客様~?」
誰かがあたしの肩を叩きながら、呼び起こす。何よ、うるさいわね。

「って……え?」
ぱちりと目を開け、回りをキョロキョロと見回すと、そこはいつものBARだった。

あれ…あたし、教会にいたはずなのに。

教会でパンとミルクを頂いた後、そのまま長椅子に横たわり眠ったはずだ。

「あたし…どうしてた?」
ずっとここにいたのだろうか。

「あのままお休みになってしまったみたいですよ。それほど経っていませんが、いくら起こしても起きられなくて。完全に夢の中でしたよ」

……夢。今までのことは、すべて夢だったのかしら…。あたしは、長い夢を見ていたのかしら。

「?…どうしました?」
少しうつむいてぼんやりと考えていたあたしに、また眠り込んでしまったのかとマスターが声をかける。

「本当はあたしが寝てた方が静かだから、わざと起こさなかったんじゃないのぉ?」
我にかえり、誤魔化すように言った。

「違いますよ~。ちゃんと起こしましたよ、風邪を引かれますよって」

「本当かしらね~?まあいいや、今日は帰るわね。…これで足りる?」
財布から万札を一枚取り出し、カウンターに置く。

結局祝儀の分は取っておくのか、とマスターは心の内で思った。飲んでやると息巻いていた割に意外と早いお帰りだ、とも思ったが、顔にも口にも出さずに、またのお越しをと見送った。

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