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アルカナの抄 時の息吹

第8章 「世界」正位置

マキが城を出た直後のこと。その事実をまだ知らない俺は、寝室で目を覚ました。部屋を出る気もないのに扉の前に立つ。なんとなくだった。

見ると、隙間に何か挟まっている。取り出すと、それはマキからの手紙だった。


『 ガロウへ

このままあたしが城にいるのは、あなたにとっても、あたしにとっても、良くないと思う。

ちょうど城の掃除も全部終わったところだし、今日、ここを出ることにしたわ。

帰る方法はまだ見つかってないけれど、これから探してみる。

今までありがとう。じゃあね。
                                  マキ 』


瞳孔が開く。何が起こったか理解した瞬間、激しく後悔し、己を責めた。マキを顧みなかった己を、自分にも周りにも甘えていた己を。

愚かだった。過ぎ去ったものばかりに目がいく。無くしたものばかりに。俺は…今、大切なものを持っているのに。失うばかりじゃないのに。

「マキ…ッ!!」
弾けるように部屋を飛び出す。ちょうど出くわしたハースに、マキを見なかったか聞いてみるも、ハースは首を横に振った。マキの部屋に行ってみる。…いない。

階段を飛ぶように駆け降り、庭へ出るが、やはりマキの姿はない。愕然とする。俺は…俺は、また失った。

「あああ…ッ!」
両手で頭を抱え込む。くしゃりと手からこぼれた髪が、逆立っていく。とがっていく。

龍の尾が、四角い低木を叩きつけ、整えられた花壇を薙いだ。庭は、みるみる荒れていった。

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