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アルカナの抄 時の息吹

第8章 「世界」正位置

マキがいなくなってから、二日が過ぎようとしていた。昨日は睡眠をきちんと取らずに没頭していたから、今日はたまに仮眠を取りながら、溜まりに溜まった文書に目を通し続けた。今、既に日は没し、月が雲間から顔を覗かせている。

おまえもどこかで、この月を眺めているのか?

月を見ると、マキを思い出す。太陽のようかと思えば、月のような魅力も時折見せる。明るく、それでいて優しい――そんな女だ。

「…もう落ち着いておいでのようですね」
その声に振り向くと、見知った男が入り口に立っていた。懐かしい顔だ。

「おまえこそ、もう大丈夫なのか?」
相手の男に言う。男は何も言わず、ただ笑んだ。

男は、ハースの息子だった。スパイとして敵国に送り、そこである女性と恋に落ちたが、身元がばれ、女性とも別れた。

「陛下も“愛”をお知りになったそうで」
マキのことだろう。俺は一瞬押し黙った。

「…それより、さっきからなぜそんな話し方なんだ。敬語はよせ。いつも通りでいい」

彼とは歳が近く、幼い頃よりの友人でもあった。俺が玉座についた後も、彼だけは常語で話すなど無礼を許されていた。いや、むしろそう命じた。今まで通り友人でいたかったのだ。

「わかった」
ふ、と男は笑う。

「――…つらいか?」
真顔に戻り、男が問いかけた。俺は無言だったが、彼はそれを“YES”と受け取ったようだ。

「…そうだろうな。愛する者が自分の元を去るというのは…そういうことだ」

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