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アルカナの抄 時の息吹

第1章 「魔術師」正位置

昼食を終えて城をふらふらしていると、ハースが向こうから歩いてきた。手には氷と水を入れた桶を持っている。

「あ、ウェハースさん。どちらに行かれるんですか?」

「ハース様と呼べと言っておろう。…ちょっと、陛下のところにな」
ハースが言葉を濁し、気にはなったが、“陛下”という言葉で先ほどの不愉快な出来事が思い出され、それが頭を占めた。

「王さまって…国民からも支持されてるんですか?」
口をついて出たのは、素直な疑問だった。ああいう考え方は、皆にも受け入れられているのだろうか。

「当たり前だろう。陛下は若くして三代目に就き、国の領土を一気に広げたカリスマだ」
愚問だ、とばかりにハースは眉をつり上げた。この小娘は何を言ってるんだ、と自分が急いでいるのも忘れ、説明し始めた。

「支配者になる者にのみ許された“紫”を、幼き頃から既にその瞳に持っていた。あの紫紺色の瞳は王たる証。美しい黒の髪もだ」

「黒髪なら、あたしもそうだけど。入社直後に染めたけど、黒髪美人に憧れて戻したのよねえ」
自分の髪をいじりながら言うあたしに、ハースは思いきり顔をしかめた。

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