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アルカナの抄 時の息吹

第1章 「魔術師」正位置

今日こそは帰る方法を、と意気込みながら食事へ向かう。と、王の姿が見えた。

「あら王さま、おはようございます」
今日は早いんですね、と心の中で嫌みを言う。

「ああ…おまえか」
王はぼんやりと返した。

「どうしたの?風邪でも引いた?」
さすがに王の元気のなさに気づいたあたしが、王の額に手を伸ばす。

「やめろ、触るな」
手をのけると、王は歩いていく。

「…気分が悪いのかしら?それとも機嫌が悪いのかしら?」
王の後ろ姿を見ながら、ぼそりと呟いた。





夕方、王の間では帰還した兵士たちが集っていた。兵士たちとは言っても、その中の選ばれた者のみが入ることを許されていた。玉座に座る王に直接言葉をもらうことができるのは、何万、何百万といる中のほんの一握りなのだ。

兵士たちが整列し、身を低くする中、一人の青年兵士が立ち上がった。上等な白金の鎧を光らせながら、玉座へと近づいていく。

「謹んでご報告いたします」
青年は玉座の前にひざまずき、テノールの、よく通った声で帰還報告を始めた。

国王の活躍は遠い戦地にいた自分に届くほどであり、また死者もなく、自分達の無事の帰還は国王の優れた采配の賜物であるとの旨を述べ、帰還報告を終えた。

次に戦果報告に移り、最後に国王の健勝と活躍を祈る、と結んだ。と、再び立ち上がり、隊列の中へ戻っていく。

王は時折ねぎらいの言葉をかけたりもしたが事務的で、終始無表情のままだった。

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