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アルカナの抄 時の息吹

第3章 「運命の輪」逆位置

ちょうどその頃、とある部屋。王が誰も――ある一人を除いて誰も近づけさせないあの部屋では、全裸の男女がベッドに横たわり、吐息を交わらせていた。

女性の年齢は、40前後だろうか。年相応の落ち着いた雰囲気と、成熟した大人の色香をまとっている。一方、男性の方はというと、女性に比べかなり若い。二人は、親子ほどの年の差がありそうだった。

ベッドの上やすぐ近くの床には、主に女性ものの衣服や下着が散らばっている。ベッド脇の椅子の背には、無造作にシャツや上着がかけられていた。

やがて男がベッドから抜け出ると、立ち上がる。す、と静かにシャツをつかみ、袖を通した。

「まだいいじゃない」
女性が甘えるように言った。対し、男性はボタンを留めながら、ちら、と目を向けて口だけで笑んだ。女性はそれ以上は言わず、短く息を漏らす。

「ねえ…」
まだ諦めきれていないのか、女性は甘えた口調のまま、また声をかける。

「最後に、キスだけ。…いいでしょ?」
女性の言葉に、男性はそっとベッドへ近づく。ふわりと腰を折り、ゆっくりと口づけた。龍の彫られた銀のボタンが首もとでわずかに揺れる。

女性も目を閉じ、角度を変えながら応える。やがてリップ音と共に唇が離れ、男性は扉へと向かった。

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