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アルカナの抄 時の息吹

第4章 「月」逆位置

「恋だの愛だの…下らない、そんなもの」

後ろからした声に、振り向く。王だった。

「…どうして?」
あたしが聞いても、王は黙ったままだ。答えたくないのだろう。そして、聞くな、というサインでもある。わかっている。…だけど。

「お母さんに、愛してもらえなかったから?」
敢えて切り込むと、王の表情は目に見えて強張った。

「自分よりも、他の男や弟を愛したから?そして果てに、近親…――」

「うるせえ――やめろ――黙れ!」

「黙らないわよ。夢で見たの。全部知ってるわ」

「あなたは逃げているだけ。闇から抜け出せず、殻に籠ってうずくまってる。あんたは愛に飢えた少年のまま、ずっと時が止まってるのよ」

「黙れと言ってる!」
王が、怒りに声を張り上げた。

その瞬間。王のすべての髪が、たてがみのように逆立ち始めた。そしてその姿は、たちまち大きな黒龍へと変わる。

恐ろしさに、息を飲んだ。周囲がざわめき、どこからか女性の悲鳴があがった。

「深入りするなと言ったはずだ」
王の声で、それは言った。

「それ以上踏み込めば…殺す」
衝撃と共に、あたしは倒れていた。つぶっていた目を開けると、鋭い爪が肩に食い込むまでに、地に強く押さえ込まれている。

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