アルカナの抄 時の息吹
第4章 「月」逆位置
俺たちの関係が壊れたのは――歯車が狂い始めたのは、俺が4歳の時だった。それまで主に国内の取り組みに精を出していた国王が、人口増加に伴い、資源確保のため他国への侵略を始める。国王自ら戦場に赴き、指揮を執った。
だが、それは想定した以上に長い戦いだった。…ヴェルテクスが優位だったはずなのに。伝令兵の伝える内容は日に日に悪くなっていき、最終的には、拮抗状態と伝えられた。
城に残された俺たち二人は、来る日も来る日も国王の帰りを待った。いつしか伝令兵も報告に来なくなり、戦況もわからぬまま。不安が募り、精神はとうに限界を超えていた。
そんなある日。やっと伝令兵が来た。落ちていく太陽の先から。…今でも忘れられない、この光景。鮮やかな夕暮れの彼方からやってきたそいつは、苦しげに、朗報と悲報を一つずつ伝えた。
戦争の勝利と、国王の崩御だ。母親は――あの人は、その瞬間泣き崩れた。幼い俺が差し伸べた手を拒んだ。俺の存在そのものを拒むように。
それから、俺を見るあの人の目は変わった。まるで、自分から最愛の人を奪った仇を見るような目。憎悪を含んだ冷ややかな目だった。
代わりに、あの人は他の者を愛した。毎晩のように男を自室へ連れ込んでいた。国王の近親や、似た男ばかりを。それは、失ったものを――心の寂しさを埋めるようでもあった。
そうして生まれたのが“あいつ”だ。
だが、それは想定した以上に長い戦いだった。…ヴェルテクスが優位だったはずなのに。伝令兵の伝える内容は日に日に悪くなっていき、最終的には、拮抗状態と伝えられた。
城に残された俺たち二人は、来る日も来る日も国王の帰りを待った。いつしか伝令兵も報告に来なくなり、戦況もわからぬまま。不安が募り、精神はとうに限界を超えていた。
そんなある日。やっと伝令兵が来た。落ちていく太陽の先から。…今でも忘れられない、この光景。鮮やかな夕暮れの彼方からやってきたそいつは、苦しげに、朗報と悲報を一つずつ伝えた。
戦争の勝利と、国王の崩御だ。母親は――あの人は、その瞬間泣き崩れた。幼い俺が差し伸べた手を拒んだ。俺の存在そのものを拒むように。
それから、俺を見るあの人の目は変わった。まるで、自分から最愛の人を奪った仇を見るような目。憎悪を含んだ冷ややかな目だった。
代わりに、あの人は他の者を愛した。毎晩のように男を自室へ連れ込んでいた。国王の近親や、似た男ばかりを。それは、失ったものを――心の寂しさを埋めるようでもあった。
そうして生まれたのが“あいつ”だ。