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アルカナの抄 時の息吹

第4章 「月」逆位置

「今のがキスよ」
王の口許に人差し指で触れる。

「そして次は…――」
口許にあった指を、つつ、と触れたまま下ろしていく。

まず、首を通る。続いて胸の間を通り、みぞおちを通り、へそを通り…。15センチほど過ぎたところでピタリと止まった瞬間、ゾクリと王が震えた。

「――…なんてね」
ふふ、と怪しく微笑むと、身体を離す。

王はベッドに倒れたまま、硬直していた。一言も発することなく愕然とあたしを見ている。あたしは再び妖艶な笑みを送ると、部屋を出た。

だが扉を閉めた時、はたと止まる。

…あれ。あたし今、結構すごいことした気がする。

歩きながら考える。自分の行動の意味を。こんなに必死な理由を。そして自分の部屋の前に着いた時、その答えを見つけた。

そっか。いつのまにか、あたし…王さまのこと。

「…好きになってたのね」
ようやく気づいた自分の気持ちに、安堵さえする。そうだったのか、と。中身を知らぬまま持っていた鞄を開けたときのような。

…いや、少し違う。知っていたのに、わからなかった。持っていたのに、それが何なのかを今初めて認識したのだ。

そっかあ、と扉に手を伸ばし、部屋の中へ入っていった。

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