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アルカナの抄 時の息吹

第5章 「恋人」正位置

「なんでここにいるっ!!」
王の声が、城じゅうにこだました。

ここは、ヴェルテクス城内の階段付近。踊り場に立つ王が、階下で掃除するあたしを、不満げに見下ろしている。

「なんでって、あんたと決めたんじゃない。ここに住まわせてもらう代わりに掃除するって」
忘れたの、とばかりに言った。だが王は、そうじゃない、とむずがゆそうに顔を歪める。

「なんで庭にいないっ!!」

「あそこはもう終わったからよ。あんたも見てたでしょ」

「…っていうか、さっきからおまえ!」
何かカチンと来たのか、ものすごい剣幕で階段を降りてくる王。

「な、なんで名前で呼ばないっ!!」

ええっ!?

「今に始まったことじゃないじゃないの。だいたい、あんたの名前知らないし」

お互い名乗ってないし、あの本にはまだ三代目は載ってなかったもの。

「ぐ……。じ、じゃあ教えるから今後はそう呼べっ!!」
さらにずかずかとあたしに寄り、王が喚いた。

「いいわよ」
あたしがうなずくと、王は大きくうなずき返す。そして嬉々として口を開きかけるが、ピタリと止まり、静かに閉じた。

「…やっぱりおまえから教えろ」
ぼそりと言う王。

ええ?…まあ、いいけど。

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